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マーリン―Pia, 2006, Mellach

ェリアがいなくなって2か月経ったときのことです。111日。オーストリアは諸聖人の日で、祝日なんです。だからはっきり覚えています。

私はその時田舎のゲストハウスでアルバイトしていました。キッチンで手伝いをしたり、客室の掃除をしたりする仕事です。祝日で、いつもより忙しい一日でした。仕事を終えて帰ろうとしたら、車のエンジンがつかない。壊れてしまったようでした。途方に暮れていたら、ゲストハウスのオーナーの息子さんが車を見てくれました。機械整備士だったんです。彼が車の下に潜って修理していると、どこからともなく、猫が一匹現れました。白と茶色で、尻尾に縞模様がある猫。修理に興味津々の様子で、一緒に車の下に潜ってみたり、車の周りをグルグルしてみたり、私を見上げてみたり。野良猫って、普通はあまり人間に近づかないんです。だから、始めは誰かが飼っている猫だと思った。Freigängerですね。でも、近所の人に聞いてみても、うちの子じゃないと言う。やっぱり野良猫だったんです。


シェリアがいなくなって、私は何度も泣きました。もう帰ってこないだろう、でも、もしかしたら帰ってくるかもしれない。諦めきれないまま、2か月が経っていました。私は、車と私から離れようとしないその野良猫を見て、決心しました。「シェリアはもう帰ってこない。この子をうちの子にしよう。」車は無事直り、私はその猫を連れて帰って、その子をマーリン Merlinと名付けました。『王様の剣』に出てくる魔法使いのマーリンが由来です。マーリンは私に、魔法をかけてくれたから。



インタビュー・文:OKUJI Yukiya