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シェリア―Pia, 2006, Mellach

ェリア Željaは、スロヴェニア語で「願い」という意味です。茶色と灰色と黒が混じった雌の三毛猫で、鼻に大きい黒のぶちがありました。なぜか私の肩に乗るのが大好きで、私がお皿を洗っているときもお構いなしに肩に乗ってくる子でした。 

私とシェリアは毎晩一緒に寝ていました。といっても、猫は自分が寝たいときにしか寝ないので、私が寝るときに一緒に部屋に来るわけじゃないんですよ。夜、外から帰ってきて、自分で私の部屋まで来るんです。私の部屋に来るためには、玄関、リビング、寝室のドアを3つ通らないといけないんですが、そのドアをひとつずつ開けてくるんです。ドアノブまでジャンプして開けるんですよ!冬はそのせいで外の凍えるような空気が家の中に入ってきて、一緒に暮らしていた祖父はどうしたものかと困っていました。でも、私はシェリアと一緒に寝られるのが嬉しかった。朝起きるとシェリアが私のベッドにいて、廊下をみると、足跡が床にてんてんてんてん……ってついているんです。外から入ってくるから、肉球に土や雪がついているんですね。

シェリアも放し飼いでした。なんで放し飼いにするのかって?確かに大都市では猫も家で飼いますよね。私が今ウィーンで飼っているマーリン Merlin とムッキー Mucki も家猫です。でも、オーストリアの田舎では、猫は基本的に放し飼いにするものだとみんな思っているはずです。そうだ、オーストリアの田舎では、道端に猫がいるのを見ても、すぐには野良猫だとは思わないんですよ。誰かの飼い猫か、農場で飼っている猫か、どちらかがぶらぶらしているだけだと思うはずです。Streunerじゃなくて、Freigängerだと思うんです。なんで農場が猫を飼っているかって?ネズミ捕りのためですよ。猫を飼って、エサや家畜に悪さをするネズミを駆除してもらっているんです。……これは昔聞いた話ですけど、農場は猫を飼うけど、猫を殺しもする。農場にとって、猫はいすぎても管理に困るからです。だから、飼っている猫がたくさん子どもを産むと、生まれた子猫を殺すんです。首をこう、くいっと。それが一番苦しまない殺し方だから。今はもう違うかもしれないですね。


あれはまだ寒くなる前だったから、8月だったと思います。ある日、シェリアは夜になっても帰ってきませんでした。1日たって、2日目になっても、帰ってこなかった。1週間待って、2週間待って、1カ月待って、それでも帰ってこなかった。車に跳ねられたか、キツネにさらわれたか。家の前がすぐ森でしたからね、キツネもたくさんいるんですよ。名前を呼びながら必死に探し回りました。「シェリア、シェリア」って。それでもシェリアは帰ってこなかった。そうやって、シェリアは私の前から姿を消しました。



インタビュー・文:OKUJI Yukiya