スキップしてメイン コンテンツに移動

プラーターⅣ―Pascale, 1993-2021, Wien

れが昔住んでたアパート。ここに12年住んでた。暗い中庭に面した、暗い部屋だった。私はやっぱり通りに面した部屋が好きだな。車の音とか、道行く人の話し声とか、赤ちゃんの泣き声とか、そういうのが聞こえたほうがいい。ここは物凄く静かな部屋だったの。あ、でも、隣の人はすごくうるさかったのよ。カップルで、夜になるとセックスの声がすごいわけ。私も多少は我慢するけど、でも、毎晩聞こえてくるわけ!ついに耐え切れなくなって、お家のドアに貼り紙したの。「お二人が仲良くされているのは素晴らしいことだと思います。でも、どうか、もう少しだけ静かにしていただけませんか」ってね。そしたらピタリと聞こえなくなった。女の人のほう、ついこの前も見かけたから、まだこの辺りに住んでるみたいね。

ここに住んでた時の苦労はまだまだある。あるとき、中庭を挟んだ真向いのお家の人に声をかけられたの。ほら、ウィーンって、建物の距離が近くて、お向かいの部屋が目と鼻の先だったりするでしょ。窓を開けた時にちょうど鉢合わせて、そこから、お互い自分の家にいながら中庭を挟んでお話しするようになったわけ。私よりちょっと年下の女の人で、小さい男の子が3人いた。男の人と別れて引っ越してきたって言ってた。一緒にお茶に行ったりもしたわ。いい人だったんだけど、ちょっと距離が近かったかな。依存されてる感じがした。ひとりでいるのが耐えられない人だったのかもね。問題だったのは、家が真向いだから、私が家でなにしてるかが相手にバレバレってことよ。彼女がいつ窓際にいてこっちを観察してるかわからないから、窓の前を横切る時は、こうやって窓より低くかがんで歩いてたの!自分の家なのに、コソコソしなきゃいけなかったわけ!

あそこは、ウィーンに来て最初に住んだ家。一番上の階だった。チューリヒからあそこに引っ越してきたころは、孤独で、世界から切り離されたみたいだった。2年で引っ越したわ。



(続)



インタビュー・文:OKUJI Yukiya