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プラーターⅢ―Pascale, 1993-2021, Wien

ラーターは昔、売春宿が多かったの。この建物も昔はそういうところだった。初老の男の人が経営してて、3つぐらい部屋を貸してたみたい。売春宿って聞くと、女の子を無理やり働かせてるみたいな悪いイメージがあるでしょ?でも、そんな白黒つけられる話でもないと思う。宿がなかったら女の子たちは公園とか車のなかでするしかない。それって、すごく危ないわけ。部屋を提供してあげるのは、彼女たちの安全のためでもあったの。まあ、お金をもらって商売してたわけだけどね。タバコとかサンドイッチも用意してあげてた。警察も目をつぶってたわ。でも、10年前ぐらいに閉鎖された。女の子たちが泣いてたのを覚えている。そのあとその男の人はどうしたんだろう。朝、仕事にいくときによく一緒になったから、いつも挨拶してたの。でも、名前も知らなかったわ。彼、いつもトイレットペーパーを持って走り回ってた。

ここのお店は、ものすごく大きいコルドン・ブルーを出すところ。コルドン・ブルー、知らない?カツレツなんだけど、なかにハムとかチーズとか入ってるの。隣のここも売春宿だった。お客は昼間も多かったから、ランチどきのコルドン・ブルー屋のまわりは結構な騒ぎだったわよ。両脇を売春宿に挟まれてるからね。まあ誰もそんなこと気にしないけど。向かいのあのお店は、昔タイマッサージだった。値段も安くて、夏にはテラス席も出してたから、私も行きたかったんだけど、場所柄たぶんそういうサービスもするところだったと思うな。結局行かずじまい。プラーターは、売春婦の女の子たちがいつもウロウロしてた。私も一人で信号待ちしてたら、車がゆっくり近づいてきて、運転してる男がウインクしてきたりするわけ。「違います」って顔すればすぐ去ってくけどね。売春婦っていっても、派手な格好をしてるわけじゃない。みんな普通の見た目よ。東欧から来た女の子が多かった。オーストリア人の子もいたけどね。

一回、交流会に行ったことがある。売春婦の人達との交流会。売春は悪いことがどうか、違法にすべきかどうかってよく議論されるけど、じゃあ本人たちがどう思ってるかって、全然注目されないでしょ?だから、ある支援団体が、当事者の女の子たちに語ってもらおうっていって、交流会を開いたの。ここの売春宿でよ。すごい盛況で、マスコミも来てた。部屋ごとに違うセッションが開かれてて、私はそのオーストリア人の子の話を聞いたの。大学生だった。その子はベッドの端に座って、どうして自分がこの仕事をしてるか話してくれた。彼女はその仕事が好きだって言ってた。スーパーのレジなんかよりもよっぽど稼げるし、私は人が好きだからって。人が好きで、セックスも好きだから、気にしないって。よく覚えてるわ。「私にとって大事なのは、相手が清潔かどうかだけ。清潔じゃない人は清潔にしてからセックスする」って言ってた。聞いて。私はフェミニストだし、金に困って身体を売るのは良くないと思う。でも、私はその子のことは批判できない。そうでしょ?



(続)



インタビュー・文:OKUJI Yukiya